Ζ覚書、第21話~適当にまとめ。
第21話 ゼータの鼓動
この回のカミーユはおかしい。前回のナレーションもエマさんも、それを寂しいからだと言うけれど、確かにそれもあるのだろうけど、それだけでは納得できないほど、今回のカミーユはおかしい。
地球にいた時には「宇宙に帰る」と言う目的があった。絶えず敵が襲ってきた、追ってきているという緊張があった。しかし今ティターンズはアポロ作戦を発動しており、アーガマには戦いがなかった。カミーユには、接触した輸送艦の検分と言う、誰にでもできるような雑用しか、することがなかった。
「何か」することが、できることが、やるべきことがあるはずなのに、何もできない。「何か」をして気を紛らわすことができない。カミーユは元々、内面に溜め込むことが苦手で、だから空手やらプチモビやらに打ち込んだり、周囲への反発という形で吐き出したりしていたので、やることが何もないと鬱屈する。暇があると悪い方ばかりに考えがいくので、「何か」をしていなければ耐えられない。その「何か」がないからちょっとしたことでささくれだって、普段なら思いついても言わないようなこと「トーレスのヤツ、トーストにしてやる」とかをそのまま吐き出したり、トーレス達と喧嘩したりと、そういう方向に行っていた訳で、まあだから8話でクワトロ大尉の言った「汗を流せばいい」は的確なアドバイスだったんだな、と。
何かやってないと、空白の時間に耐えられない。
それが今までは「Ζガンダムの設計」や「ハロいじり」だったけど、この回ではやることがなかった。
自習室で「ドアに背を預けて」座っているカミーユ。一番出口に近い場所。
サエグサ「ホンコンなんか、ホロテープのいいヤツさ」
トーレス「そうそう、見せろよ」
カミーユ「嫌ですよ」
ここの嫌ですよの言い方かわいい。
この後のやりとりも男の子らしくて仲良しで微笑ましい。
微笑ましいのだけど、カミーユ自身はこの部屋から出たがっていて、さっきまで喧嘩していた相手でも「普通に」話しかけられたら「普通に」返せる。カミーユ自身の感情を置き去りにして普通に振る舞えるってことで、実はあまり良いことじゃない。
ホンコン土産のホロテープ。あの状況でいつ買ったのか、あるいは貰ったのか。どうやって持ち込んだのか。
買った場合。
18話でアムロを探しに行かされたとき、なんで俺が……。とぶーたれながら車走らせてるときにいかがわしい自販機か露店を見つけて衝動的に買って車の収納に入れといた。本人はそのまま買ったことも忘れてたけど、アウドムラのクルーが見つけて(察して)他の人に見つかってカミーユが怒られないようにとこそっとMk‐Ⅱの収納スペース(救急セットとか携行食とか入ってる場所)に忍ばせておいてあげた。
それを宇宙に上がってから整備中にアーガマのクルーが見つけて(察して)にやにやしながら返してあげたので「カミーユがホンコンでホロテープ買ってきた!」という噂が広まった。
お金に関しては、アムロを探しにいかせるときにハヤトが、「ついでにこれでなんか買ってきたらどうだ? ほら、足りないものとかアーガマへのお土産とか服とか。良い気分転換にもなるだろ」と言いながらお札握らせた。
貰った場合。
Mk‐Ⅱの整備中に収納スペースに見覚えのない紙袋が増えてるのに気が付いて周りのクルーに聞いたら、「あー、いいから持っとけよ。俺たちからのなんつーか、差し入れ? みたいなもんだから。お前もそのうち宇宙に帰るんだろ? 土産みたいなもんだ」「ほんとはそういう店にも連れてってやりたかったけど、そんな状況じゃないし、クワトロ大尉に怒られそうだしなー」と言って押し付けられた。「はぁ。(なんで大尉の名前が出てくるんだろと思いつつ)ありがとうございます」Mk‐Ⅱに戻ってから(なんだろ、これ……、ッ!!)「あー、まあ。置いとこ」と、元の場所に戻して以下省略。
戦場に出て「ニュータイプとしての感覚」を研ぎ澄まそうとしているカミーユ。敵を殺すのは悪いことだと悟ったのでそれをするための理由(免罪符)を求めている。自分はニュータイプだから、特別な力があるから、やらなければならないことがあるから、自分にしかできないことがあるはずだから。他人を犠牲にして生き残る意味(価値)を見つけようとしている。
カミーユ「ただのモビルスーツじゃありません。注意してください」
エマ「了解。男って、戦争になると元気で、頭も回るようね」
カミーユ「いけませんか?」通信を一旦切って「あんた、俺の姉さんじゃないだろ」オンにしてから「来ます!」
トーレスの時にマイク入れっぱで失敗したので今度は通信を切ってから悪態を吐くカミーユ。こういう無駄な学習能力の高さでどんどんボロを出さなくなっていく。
カミーユ「パイロットの養成には、お金が掛かるんです」
エマさんが後でいいとか言ったせいもあるのだけど。仲間の命を助ける理由にも、仲間だから当然だという感情論ではなく、反論できない真っ当な理屈が必要になってる。これはエマさんを納得させるための言葉で本気で思っているわけではないけれど、仲間だから助けるという当たり前のことが(エマに対して)言えなくなってる。
ジェリドのガブスレイに羽交い絞めにされるも間一髪のところでΖの砲撃で助かるが、コックピットから投げ出されるカミーユ。
カミーユ「迂闊だった。新型が2機も出るなんて……。これが、甘えだというのか」
カミーユ「戦場で役にも立てずに……。俺は、こんなところで窒息死して……、俺は、親のところへ行くのか」
もうちょっと生き足掻け。
何かできることがあるはずだった。やらなければならないことがあるはずだった。そうでなければ報われないものをたくさん抱えているのに。背負っているのに。それが見つけられないまま投げ出された。何もできずに、何もやれずに、このまま……。無力感。茫然自失。
聞こえてくるファの声。Ζの鼓動。過去との絆。過去の自分が作った機体。自分が無力ではない証。エゥーゴに必要な力。戦う力。Ζガンダム。ファの笑顔。
助かったという実感と、自分が戦う理由、戦う力。ファの笑顔と、Ζガンダム。
それらを得てやっと、「何か」を探していた心が落ち着いた。嬉しかった。愛しかった。だからファを抱きしめた。
カミーユ「違うよ。パイロットは、戦場の全体のことは見ていない。宇宙では、何が起こっているかわからないから、命令違反はなしだ」
子供に「赤信号は渡っちゃダメ」と教えるように。ファに命令違反はなしだと言うことと、自分が命令違反をすることは、カミーユの中では矛盾していない。
次回予告
『カミーユはファに冷たかった』
さっきまでいちゃいちゃしてたのにこれですよ!
第22話 シロッコの眼
ファに戦ってほしくないカミーユと、カミーユのために戦いたいファ。すれ違い。
カミーユはファを守りたかった。ファの幸せを守りたかった。そこにカミーユ自身は含まれていなかった。 だからファには、戦いとは無縁の場所にいてほしかった。ただファが幸せでいてくれるなら、ファの幸せを守れるなら、自分が戦う意味はあると、そう思った。カミーユはファを、自分が戦う理由にしたかった。
だけどファは、共に戦う仲間になることを望んで、カミーユと一緒にいることを望んで、カミーユのために戦うことを望んで、パイロットになった。
ファ「には」幸せでいてほしかったカミーユと、カミーユ「と」幸せになりたいファの戦いの幕開け。
カミーユの世話係を押し付けあうブライトとエマ。結局ブライトが引き受けたけど……。おかしいな、ブライトさんがカミーユに何かした記憶がない。
エマ「カミーユは本能的にあたしを好きですから」
エマ「自惚れで言っているのではないのです。つまり、カミーユのマザーコンプレックスに、手を貸すのが怖いんです」
エマさんはカミーユの出すSOSには気付いていたけど、自分の手には負えないからと放置した人。
カミーユの部屋、ハロがいるのにいじらず、ベッドに横になっているカミーユ。余計なもののない、簡素な部屋。
今までずっとカミーユが戦うときにはクワトロかアムロがいた。自分より強い、信頼できる、背中を任せられる相手が、たとえカミーユが無断出撃したときでも、一時的に離ればなれになったときでも、合流できる場所にいた。助けにきてくれた。
エマは先輩パイロットだけれど実力的にはカミーユに劣っている。味方の中でカミーユが一番強い。前回は自分のことで手一杯だったカミーユだが、それでもエマを助けた。今回も右足に被弾したリックディアスに接触して、「任せてくれればいい」と退却を促す。
ちゃんと周囲を見て、仲間のフォローを出来ているとみるか、一人で抱え込もうとしているとみるか。
とりあえず、戦場での意識は変わっている。
第23話 ムーン・アタック あのシーンだけ抜き出し
部屋の中の大掃除をするカミーユ。洗濯物も干して、ベッドマットを部屋の外に出して、掃除機を当てて。
エマさんに手伝ってもらって、元に戻して。
カミーユ「持てますよ、エマさん」
エマ「あなた一人にやらせといたら、いつ終わるかわからないでしょ。ご両親を亡くして、いつまでも被害者意識で甘えてるんでしょ?」
カミーユ「まさか。自分が殺してしまったパイロットのことを、考えるようになっています」
ヘッドボードの棚の中に隠した、即席の祭壇を見せながら。
エマ「お祈りしてるの?」
カミーユ「無宗教ですけどね」
エマ「死んだ人には宗教は関係ないもんね」
カミーユ「いつ終わるんですか、この戦争は?」
エマ「クワトロ大尉に聞いて」
カミーユ「大尉来るんですか?」
ここね。これね。
コミカルに見せてるけど、ここがね。
私がカミーユはもう駄目だと思ったシーンでしてね。
今までカミーユは、敵を殺すことに対する迷いも葛藤も、罪の意識も、誰にも話したりはしなかった。内側に溜めておくのが苦手な子なのに、それをどこにも出せなかった。それが息苦しくて、部屋の中でも苦しくて、そんな場合ではないのに部屋の隅々まで掃除をするという形で表れて、エマさんに打ち明けた。
カミーユはこの行為を否定してほしかった。そんなことをしてはいけないと、殺した敵のことなど考えず、自分が生き残ることを考えろとか、同じ祈るなら、死んでいった仲間のために祈れとか、そういうことを言ってほしかった。戦争で敵を殺すことは仕方がないことで、それを気に病んではいけないと、かつてアムロの戦いを通して自分で見つけた答えを否定してほしかった。いつものように叱ってほしかった。
でも伝わらなかった。エマさんはカミーユのこの行為を、軽く流すだけだった。カミーユが吐き出した弱音は、助けてと言う言葉は、どこにも届かずに消えた。
カミーユは、まるで何事もなかったかのように、普段通りに振る舞った。
カミーユはこれからも、罪の意識を抱えたまま敵を殺し続け、祈り続ける。
もう駄目だ。
戦場で、敵も自分と同じ人間なのだと思って戦うことは、苦痛だ。だから軍は敵を憎めと教える。味方を愛せと教える。
たった一人の味方を救うために百人の敵を殺すことを正義だと教える。
たとえ目の前の敵が自分より弱くても、その敵は他の味方より強い。見逃せばいまここに居ない仲間が襲われて、殺されるかもしれない。だから敵は皆殺しにしろと教える。
敵に情けをかけるなと教える。
それは、戦場で兵士の心を守るための教えだ。
戦場で敵も自分と同じ人間なのだと思って戦うことは、苦痛だ。その痛みは心を病ませる。
だから敵を殺すことは正義だと教える。
洗脳と言っていいほどの執拗さで、繰り返し教える。
そう思わなければ人は壊れる。
相手は「敵」であって「人」ではないのだと。
これは人殺しではなく、正義なのだと。
カミーユはそれを教えてもらえなかった。甘えるなとは何度も言われた。その甘えは自分を殺すと。
それは同じに見えて、違うのだ。
人殺しを悪だと感じるのは、人間として当たり前の感情だ。
それを戦場では正義としなければならない。
その転換が上手くできる人間の方が稀だ。
だから軍は敵を殺せと教える。それが正義だと教える。
洗脳まがいに、何度も何度も。
それは甘えではなく、人として当然の心理だと分かっているから、繰り返し教える。
敵より味方の命の方が重いと。この戦場に人間は、「味方」しかいない。敵は「敵」であって、人間ではないと。
カミーユはそれを教えてもらえなかった。
ただの甘えだと断じられて、唯一吐き出した言葉さえ流された。
それは確かに、何でもない風に聞こえたのかもしれないけれど。
そこに込められた意味は、理解し辛かったかもしれないけれど。
それはカミーユが血を吐く思いで吐き出した、「助けて」の言葉だった。
もう駄目だ。
第23話 ムーン・アタック
気持ちを切り替えていきましょう。
ファはカミーユに守られたい訳ではなく、カミーユを守りたかった。共に戦いたかった。役に立ちたかった。 だから焦って先走る。強くなりたい、力になりたいという思いがファを戦いに駆り立てる。
だからカミーユに助けられても、素直に礼が言えない。
サラはシロッコに洗脳されたカミーユという立ち位置にいるキャラだと思うんだけど、カツと絡ませたせいでカミーユとの対比がおざなりになった感じ。
マラサイ・パイロット「後ろを取られた!?」
カミーユ「もらったぁ! うっ、この不快感は!?」
敵を後ろから撃つことにも抵抗のないカミーユ。シロッコの気配を感じて凍りつく。
ジェリド「こ、これは! この不愉快さは何だ?」
クワトロ「この感覚、あの男か?」
ジェリド・マウアーVSクワトロの泥仕合のような戦い。クワトロの呼びかけで我に返るカミーユ。
この辺のカミーユは平気な振りをしようとしていて、普通に振る舞おうとしていて、(ボロがぼろぼろでてるけど)本人は自分の傷は置き去りにして、ニュータイプのパイロットとして考え、行動しようとしている……ように見える。
第24話 反撃
カミーユ「ハロの調子が悪くなった。直しとけ」
カツ「は、はい。だから! どこへ行くの?」
ハロを自分でいじらなくなったカミーユ。そんな気力すらない。
地球降下前は暇さえあればいじっていて、22話で暇があってもいじらなくなって、今回でとうとう故障してすら自分で直さなくなったっていう、カミーユが精神的に追い詰められていることの表現。
カツ君の、すごい、背景に溶け込む能力。車に隠れたの誰も気付かない!
ミドゥサ・カレッジの一年生、シュリー・クライム、18歳。
この時の運転手とのやりとりが物凄くぶっきらぼうで愛想がないのもカミーユの精神的な余裕のなさの表れで、親しい相手の前で「普通」に振る舞うので一杯一杯で、知らない相手にまで愛想よくしてられないってことで、今回以外にもカミーユが良く知らない整備員やパイロットに高圧的な態度を取ってる時は大体精神的に追い詰められてる時。
心に余裕のある時はまあまあ愛想よく接している。
戦闘後のブリッジでみんなに背中を向け、爪を噛むカミーユ。
第50話 宇宙を駆ける
カミーユ「この戦争で、戦争で死んでいった人達は世界が救われると思ったから死んでいったんです!」
そう思っていたのはカミーユだ。そう信じて、そう願って、罪の意識を押し隠して、戦ってきたのがカミーユだ。
カミーユの、「たとえ戦争でも敵を殺すのはいけないことじゃないのか?」という思いは、誰にも気付かれないまま、誰にも共感されないまま、カミーユの心を苛み続けていた。
でもそれは仕方のないことだった。
カミーユは人に甘えたり、弱みを見せたりするのが苦手な、「助けて」が言えない子供だった。でもアーガマクルー達との関わりを経て、少しずついい方向に変わっていっていた。
それが11話でアーガマから離れ、地球に降りる途中で「敵を殺すこと」に疑問を覚えはじめ、でもそれをクワトロに打ち明けられずに心の奥にしまい、クワトロもカミーユの悩みに気付かずに、宇宙に帰って行った。
そして、アーガマクルー達の見ていないところで、カミーユはアムロの戦いから答えを見つけた。「やっぱり、戦争だからといって敵を殺すのはよくないことなのだ」と。
このとき、ちゃんとアムロと話せていれば、もしかしたらカミーユのその答えは間違っているとアムロは教えられたかもしれない。カミーユの心を、少しは軽くできたかもしれない。
しかしカミーユとアムロの間にはベルトーチカがいて、二人がちゃんと話せる時間は戦闘中やその前後、ベルトーチカのいない僅かな時間しかなかった。そしてアムロはカミーユの迷いの根本に気付いていなかった。
「敵のニュータイプに惹かれていること」「街を守ろうとして攻撃をためらっていること」「敵のニュータイプを助けようとしていること」には気がついていたけど、敵の一兵卒を殺すことにすらためらいがあることに、アムロは気がついていなかった。
気がつかないまま別れて、カミーユはアーガマへ戻った。
地上でのことを何も知らない、カミーユがそこで何を感じて、何に傷ついたかも知らずに、ただその活躍だけを知っているクルー達に、カミーユは自分の傷を打ち明けることが出来なかった。
そしてカミーユが「傷を隠している」ことに、傷つく前のカミーユしか知らない彼らは気付くことが出来なかった。
2話のラストで応急処置しかしていない、エラー音は消えたとはいえ空気漏れの可能性の残るコックピットで、この先どうなるのかもまったく分からない状況で「懐かしい感じがする……」とリラックスしていたのを見ても分かるように(……分かるように)カミーユは元々、自分の置かれている状況を無視して「普通に」振る舞える子供だ。
そんな子供が傷を隠して普通に振る舞おうとして、それでも隠しきれない痛みを、周りは「甘え」だと断じた。「地球で活躍して調子に乗っている」と。
カミーユの苦しみは、誰にも理解されなかった。
唯一エマさんに吐き出した言葉も軽く流されて、カミーユはそこでもう完全に諦めてしまった。自分の痛みを、周りに理解してもらうことを。
そうして一人抱え込んだその傷は、戦いのたびに、敵を殺すたびに、誰かを失うたびに増えていくだけの傷だ。
その傷の癒し方を、カミーユは知らなかった。
だから、誰かを助けられれば、戦争を終わらせられれば、世界が平和になれば、救われるのだと、許されるのだと、そう信じて、そう願って、そう祈って戦ってきた。
心の奥で血を流し続けて、その傷を見ない振りをして、痛みなど感じていないように振る舞って、フォウを救えなくてサラを説得できなくてレコアを守れなくてロザミィを救えなくてコロニーに毒ガスが注入されるのを止められなくて何もできなくて何も守れなくても必死に戦ってきた。
カミーユの周りにはカミーユの痛みに共感できる者がいなかった。周りはみんな、戦争で敵を殺すことになんの疑問も抱かず、ファやカツでさえ、そんなことで悩んではいなかった。誰もカミーユの心の痛みに気付かず、上辺だけの成長を真に受けて、「カミーユはもう大丈夫だ」とそういって、カミーユの心を見ることをやめた。
カミーユは一人だった。たった一人で、戦争を終わらせなければ癒えない傷を抱えて、たった一人で戦った。
ファやシンタ、クムの存在はカミーユの癒しになったけれど、その存在にとても救われていたけど、でもそれで傷が癒えるはずもなく一時の慰めでしかなかった。
「(ニュータイプに)出来ることと言ったら人殺しだけみたいだな」というカミーユのセリフを、ファは否定するべきだった。たとえ嘘でも何でも、絶対に否定しなければいけないセリフだった。
「自分が殺してしまったパイロットのことを、考えるようになっています」というカミーユのセリフを、エマさんは否定するべきだった。「殺してしまった」という言い回しに罪の意識を読み取って、そんなことをしてはいけないと、戦場で敵を殺すのは当たり前のことだから、それを罪だと思ってはいけないと、言わなければいけなかった。そうすればカミーユの心も少しは救われていた。
だけど言わなかった。エマさんはカミーユの心情を理解していなかったし、ファにはその言葉は重すぎた。だからカミーユは救われずに、思いつめたままで戦って、戦って、世界が救われれば自分の罪も許されるのだと信じて、願って、戦って、信じ切れずに壊れてしまった。
シロッコの呪縛なんて、切っ掛けにしか過ぎない。結局カミーユは、「この戦いが終われば世界は平和になる」という希望を信じて命の限りに戦って、己の全てをかけて戦って、だけど結果を見るのが怖かった。結局何も変わらないのだという現実を見るのが怖かった。信じたものに裏切られるのが怖かったから、結局自分は何も救えなかったのだと思い知らされるのが怖かったから、心を手放して、「生きる」ことをやめて。
そしてジュドーに出会った。
ジュドーはカミーユの言葉を否定してくれる、ニュータイプにできることは人殺しだけじゃないという可能性を見せてくれる、カミーユにとっての希望だった。