Ζ覚書、とりとめのない追記2。



カミーユが精神崩壊した原因について、前編。

 24話以降の展開は、「それがなくてもカミーユは壊れていた」と言う意味で、カミーユが壊れた原因とは言い難い。
 では何がなければカミーユは壊れなかったかと言うと、「周囲の無理解」である。
 そして、「周囲の無理解」はカミーユが無意識にでもSOSを発し続けていればなかったかもしれないと言う意味で、カミーユが壊れた原因は、11話後半からの「敵を殺すことへの迷い」であり、それを周囲に相談できなかったことと、自分の罪だと思い込んだこと、それをエマさんに訴えたけど軽く流されて心が折れて、他人に理解してもらうのを諦め、一人で抱え込んでしまったことと言う意味で、23話のあのシーンまでになる。

 とはいえ、Ζガンダムは意図的にカミーユの周りからカミーユの心情を理解できる人間を排除していたので、たとえカミーユがSOSを発し続けていたとしてもそれを理解して、カミーユを助けられる人は居なかったかもしれない。
 エマさんは22話で「カミーユのマザーコンプレックスに、手を貸すのが怖い」と言って世話係をブライトに押し付けたし、ブライトさんはその後しばらくカミーユの様子を見たあと26話で「素直になったものだ。私の出る幕はないか」とかいって勝手に納得して結局カミーユに何もしなかった。
 地球に降りる前はカミーユのことを気遣ってくれていたヘンケンはエマさんべったりになって、クワトロ大尉は地上にいる間に「戦うことが好きなこの人には自分の悩みは分からないに違いない」と見切りをつけられて相談対象から外れて、カミーユが心の底で母親を求めていたレコアさんは女であることを選んでシロッコについて……と、カミーユの周りにはカミーユの悩みを理解して受け止められる人間が誰も居なかった。

 では、どうすればカミーユは壊れずにすんだのかと言うと、これは完全に私の個人的な見解だけど、エマさんとライラさんをチェンジして、ヘンケン艦長がずっとアーガマの艦長をしていれば大丈夫だった。

 カミーユは両親から無条件の愛情と庇護を受けられず、両親を無条件に信頼することも全力でぶつかることもできず、子供が一番最初に接する他人である両親との信頼関係の構築に失敗して、結果他人と適切な距離で付き合うことが出来なくなった子供だ。

 だから他人の中に踏み込み過ぎて拒絶されたり、自分のことを嫌っている相手に好意的に接することが出来なくてどんどん関係が悪化して行ったりする。

 「無条件で自分を愛してくれる」「本気でぶつかっても受け止めてくれる」両親との触れ合いで学ぶべき他人への甘え方や頼り方を知らず、自分が人から愛される人間だという自信も実感もなく、だから自分が相手をどう思うかより、相手が自分をどう扱うかで対応を決めていた。(本人にその自覚はなかったけど)

 フォウやロザミィは最初からカミーユに好意的だったし、途中からカミーユにとって「守る対象」になっていたので、相手の態度に拘わらず二人を救おうとしたけど、カツやベルトーチカとは最初は(お互いに)好意的に接していたのに、相手の態度が変わるとそれに合わせて態度を変えた。(自分が人から好かれる人間だという自信がないから、自分のことを嫌いになった相手との関係を修復しようとすることもない。どうせ無駄だから。嫌われたらそこでおしまい。その代わり相手の方から関係を修復しようとしてきたら素直に受け入れる。本当は仲良くしたいと思っているから)

 カミーユが唯一「自分の方から」好意的に接した相手はブライトだけだったけど、あれも一年戦争で活躍したホワイトベースの艦長に対する憧れからで、宇宙に戻った後は憧れだけで自分に好意を示してない相手に好き好きオーラを出すことができるほどの精神的余裕がなかったために、普通の対応になっていた。
 そして地球に降りる前は笑顔全開で話しかけてきていたカミーユが笑顔を見せず、カミーユの方から用もないのに話しかけてくることもなくなったから、ブライトもカミーユと腹を割って話すきっかけが掴めなかったっていうのもある。

 カミーユに必要だったのは、両親との間で築くことの出来なかった「信頼関係の構築」つまりは「カミーユの悩みを親身に聞いて共に解決策を模索してくれる相手」で、「カミーユのマザーコンプレックスに、手を貸すのが怖い」と言ってカミーユと向き合うことを避けたエマさんや、カミーユとなにも話さないうちから「私の出る幕はない」と言ってカミーユの世話係を降りたブライトとの間には築きようがないものだった。

 カミーユは初めて会ったときからライラのことを「出来る人だ」と評価していて、いきなり拳銃を突きつけられるという最悪の出会い方だったのにライラに対して反発することはなく、戦闘中も話し合おうとしていた。 ライラさんもカミーユに反感を抱きながら殺されたにも拘わらず、(なんの因果か)最終決戦でカミーユに力を貸してくれたくらい面倒見のいい姉御肌なので、もしカミーユと上司と部下という関係になったら、なんだかんだでカミーユの面倒を見てくれたはず。
 そしてライラさんも生粋の軍人なのでカミーユに戦争で敵を殺すことを自分の罪だと思ってはいけないと言えたはずだ。
 ヘンケンも、エマさんがいなければ恋愛脳にならずに11話までと同じようにカミーユの面倒を見てくれただろうし、この二人と信頼関係が築けて、自分の悩みを打ち明けられたのなら、カミーユも正しい方向に成長して、困難を乗り越えていくことが出来たはずだ。(ぶっちゃけ24話以降のカミーユは罪の意識から逃れたくて「前に向かって」逃げていただけで精神的な成長など一切していない)

 ライラさんは無理としても、ヘンケンの方は本編の中でも同じ艦の艦長としてカミーユと接して、カミーユの悩みに気付けさえすればカミーユを救えた可能性があった。
 だからヘンケンはラーディッシュに左遷された上にエマさんべったりになって、アーガマに来た時にもカミーユを気に掛けることはなかった。
 カミーユの方も「助けて」が言えない、甘え方を知らない子供だったし、ヘンケンがアーガマに来た頃には他人に助けを求めるのを諦めていたので自分から会いに行くこともなかった。
 だからエゥーゴで唯一カミーユを助けられたかもしれないヘンケンは最後までカミーユの悩みに気付くこともなく、エマを守って死んだ。

 企画段階では途中でエゥーゴに参加する予定もあったと噂される空手部キャプテン、メズーンが本編に出てこなかったのも同じ理由で、あの人はカミーユの「良き相談相手」になれた可能性があるから。
 あのカミーユが通り過ぎざまに殴られたのに反撃もせず、「すぐ戻ります」と譲歩しましたからね。実際に戻る気はゼロだったとしても口では戻ると言いましたからね。
 実はこの二人の関係は良好だったし、メズーンはリュウさんタイプの一見軽いけど実は頼りになるキャラだった可能性が大なので、再登場はしなかった。

 クワトロは36話でフォウが死んだときにフォウの亡骸を胸に抱きながら「僕はもう、あなたのことをクワトロ大尉とは呼びませんよ。あなたはシャア・アズナブルに戻らなくてはいけないんです」と自分を睨みつけたカミーユを見てやっと、カミーユの様子がおかしいことに気付いて、サングラスを外してカミーユの本心を見ようとしたけど、クワトロに「人を殺したくない」なんて感情が分かるはずもなく、今まで他人を利用するかされるかみたいな人生しか送ってこなかったクワトロに、自分に都合のいい方向に誘導することなく相手の悩みを聞きだして解決に導くなんて芸当ができるはずもなく、カミーユが「過去に囚われて道を見失った自分には見つけようのない、父ジオンの提唱したニュータイプの可能性」を示してくれることを期待していたクワトロは、自分が深く踏み込むことでカミーユを歪めてしまうことを恐れて手を出しあぐねていた。
 48話でファに「出来る事と言ったら人殺しだけみたいだな……」と言って逃げられたカミーユに「気にするな」と言ってはみたけれど、既にクワトロには自分の気持ちは分からないと思っていたカミーユに軽くかわされ、やはり自分ではカミーユを救えないのだと打ちのめされた。

 レコアさんは人当たりが良くて、カミーユは自分に優しくしてくれる人には安心して甘えられるというか、そういう人にしか甘えられないので(そして甘え方を知らないので相手との距離を一気に詰め過ぎて引かれたり、なんか空回ったりするので)、一緒に居るとカミーユが依存しすぎてとても子供には見せられないドロドロ展開に突入する危険があったので、長期間カミーユと一緒にならないようにあっちゃこっちゃ出張したあげくシロッコについた。

 ファは、親に愛されて育った子供なので、自立心が強く、モビルスーツに乗って戦うために軍に入ることも訓練を受けることも当然のことだと受け入れた。
 この辺、軍人になることを嫌がり、最後まで軍属のままだったカミーユとは違う。
 まずは自分の足で立てるようになろうと軍に志願しパイロットになったファと、自分はまだ子供(物語後半はニュータイプ)なのだから、特別扱いを受けて当然だと、自分の立ち位置を固定しないまま戦い続けたカミーユ。
 ファは「早く一人前になりたい」「周りに自分は一人前だと認めてほしい」と思っていたけどカミーユは「早く戦いを終わらせたい」「これ以上誰も失いたくない」という気持ちが一番で「組織の中での自分の立ち位置」にあまり関心がなかった。
 だからこの二人は「根本的な立ち位置」から違っていて、そのせいで「お互いを理解しあって支えあう」ということが出来なかった。
 そして「自分はまだまだ弱いから早くカミーユを守れるくらい強くならなくちゃ」と思っていたファはカミーユに甘えたりしなかったし、自分より強いカミーユに助けが必要だとは思っていなかったから、カミーユの苦しみに気付かず、48話の「出来る事と言ったら人殺しだけみたいだな……」という言葉も、それがどれほどカミーユにとって辛いことか分からず、何も言い返せず逃げてしまった。
 あの時点でカミーユは自分の一番深くて痛い傷について笑顔で話せるくらいおかしくなっていたから、その言葉を否定したところでカミーユを救うことは出来なかったけれど、それでもファに対して初めて自分の意志で「助けて」と言ったのだから、受け止めて欲しかった。
 だけど受け止められなかったファには、Ζの時点でカミーユを救うことは出来なかったけど、ΖΖでずっとカミーユの傍にいて、カミーユの命を繋ぎとめて、カミーユの帰る場所を守っていたファは最終的にはカミーユを救えたのだからもうそれでいいかなと思います。

 カミーユの人を殺したくないという感情に気付いていたのはジェリドだけだったけど、ジェリドはカミーユをライラとカクリコンとマウアーの仇だと追い続けて人殺しと罵り続けてカミーユの傷口を的確に抉るだけで、カミーユを許さなかった。
 24話でジェリドが「こいつがライラやカクリコンを殺したんだ!」と言ったときに、カミーユは「あなただって僕の母さんを!」と言い返したりはしなかった。
 カミーユは4話でジェリドに対して「許してやる」と言った言葉通りに、本当にジェリドを許していたのに、ジェリドはカミーユを許さず、カミーユも自分自身を許せないまま、ジェリドの言葉に傷を抉られていた。
 カミーユは「憎しみの連鎖」を断ち切りたかったし、心の奥ではジェリドに(というか誰かに)自分を許してほしいと思っていたけど、それを素直に言える性格ではないので、ジェリドの言葉を反射的に否定するくらいしか出来なかった。

 ことほどさようにカミーユの周りにはカミーユを救える人間はいなかったし、救える可能性のあった人はカミーユから遠ざけられていた。唯一カミーユの心情を理解していたのがカミーユを絶対に許さないジェリドだったのもそうだし、物語全体のキャラ配置が「カミーユを救わない」ようになっていたのだから、壊れるのは当たり前で、むしろ最後まで死ななかったことを褒めてあげたい。



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